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何も知らない幼い頃は、夢を見ていたんだと思う。
緑が鮮やかな木々に囲まれた森の奥にある花畑とか、大きく丸い月が揺蕩う海面の煌めきとか、繊細なガラスに導かれる、絶対的な幸福とか。
そういうキラキラした世界に、憧れてたんだ。
「……母さん?」
高校生の頃、夜中に喉の渇きを覚えて目を覚ましたことがある。まだ夜に近い時間のそれに、仕方なく体を起こしてリビングへ降りた俺を待っていたのは、くたびれた絵本を捲る母の姿だった。
「あぁ、ごめん。起こしちゃった?」
「ん、いや。大丈夫だけど……シンデレラ?」
申し訳なさそうに眉を下げる母が、ゆっくりと絵本を閉じる。タイトルすら擦り切れたそれは、幼い頃に繰り返しねだった絵本だった。
「そう。洸大、このお話好きだったよね」
「そうだね。この話に限らず、お伽話はわりとなんでも好きだけど。まぁ、シンデレラを1番よくねだった記憶はある」
「母さん、一時期覚えてたもん。この本のセリフ」
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