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くすくすと懐かしそうに笑う母の目尻に、年輪のように皺が浮かぶ。幼い頃から随分と長い時間が経っているのだと、母のそれに急に強い焦りを感じた。
自分の成長を、待っている場合ではないと思った。
「……洸大は、お姫様になりたかったの?」
「へ?」
じっと母の目尻を見つめていた俺は、一瞬、問われた意味が分からなかった。重ねた目に見える不安と心配の色に、ようやくその意味を飲み込む。
「別にそういうんじゃないよ。ただ好きだっただけ」
「……でも、これは女の子の……」
夢と理想が詰まった、男の子とは無縁の世界。
そんな続きが聞こえてきそうな母の途切れた言葉は、煌びやかな世界に憧れる俺自身を否定する。
慣れてはいても、少し、寂しくなる瞬間だ。
「……憧れてたんだよ。お伽話の、優しい世界に」
投げやりになってしまった言葉の裏に気付いたのか、母が気まずそうに目を伏せる。
この家は、まるでハリボテみたいだった。
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