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それもこれも、全ては父のせいだと思っている。
父は、いわゆる亭主関白というやつだった。。母のことを想う素ぶりはなく、帰りはいつも夜中。それも仕事ではない。女と、遊び呆けているのだ。
過去に1度、それについて母が言及している姿を見たことがある。普段たおやかな瞳を涙で滲ませる母は見ていて痛ましく、それを面倒そうにあしらった父のことを、俺は未だに許せずにいる。
父さえいなければきっと、ここも1つの世界になれるのに。
幾度そう思ったかしれない。父へと依存する母の姿を見ているのは息苦しく、どうやっても返ってこない想いを捨てられされすれば、きっと幸せになれるのにと何度も思った。俺が、母を幸せにしてあげたい、とも。
「……母さんは、行きたいと思わないの。お伽話の世界」
「えぇ?」
母が、驚きと困惑を混ぜた顔で淡く笑う。
これは一種の賭けだった。母が肯定してくれるなら、俺は、母と2人で家を出る覚悟もしていた。
今考えれば、そんなの夢物語でしかないんだけど。
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