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コトン。物音がした。
クリーム色のソファに沈み込み、大きな窓の向こうにぽかりと浮かぶ月を見ていた花御が、まるでロボットみたいにぎこちなく視線を動かす。
見計らったように、テレビの奥に隠していたはずの写真立てが顔を覗かせていた。
じわりと苦い気持ちが胸いっぱいに広がり、思わず視線を逸らす。そうやっていつものように逃げてから、花御は、下唇を柔く噛み締めた。
いくらか赤みの引いた首元が、鈍く疼く。
就職して1人暮らしを始めてから買った、颯斗との時間を認識させてくれる、唯一のもの。
思わぬ終わりを迎えて以来テレビの奥に隠し込み、捨てないのではなく失くしただけだと自分に言い聞かせてきた、癒えない傷を知らしめるもの。
いい加減もう、手放さなければいけない。
花御は直視を避けてきたそれに目線をやり、そろりとソファから腰を上げる。
少なくとも4年。テレビ裏に押し込まれていた写真立ては、買った時のまま、シンプルなイラストが描かれた薄紙さえ捨てられることなく、そこにあった。
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