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「も、もしもし」
『こんばんは、佐野です。電話、確認せずに出ましたね』
揶揄う声が咎めるようなフリをしてくすくす笑う。
欠勤の連絡用に交換してある番号がディスプレイに表示されるのは初めてのことで、花御は、電話越しの少し遠い声に落ち着きなくソファへ腰を下ろした。
耳元で、笑いを収めた佐野の吐息が聞こえる。それがどこか重く聞こえて、花御はふと息を抜いた。
「何か、あった?」
佐野と別れたのは、もう数時間前のことだ。夜更けというほどではないにしろ、中には眠りにつく人もいるだろう。
花御は、颯斗と一悶着あったと半ば確信しつつ、そう尋ねた。一拍、佐野の迷いが伝わる間が空く。
『……俺、家出てきちゃいました』
「え、?」
『正確には、追い出されたんですけど』
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