セピア色の硝子片

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* * *  時間にしてみれば、5分も経っていない。 「俺しますよ」  店内の音楽が微かに聞こえてくる厨房に響いた朗らかな声に、泡のついた手で袖を捲ろうとしていた花御の手が止まる。 「佐野くん」 「歌依さんに聞いて。俺がやりますよ」  早くも少し日に焼けた腕を晒すように袖をたくし上げながら、佐野がきょとんとする花御に笑みを向ける。  茂木とのやり取りを思い出した花御は、一瞬の逡巡ののちにスポンジから手を離した。 「……じゃあ、お願いしようかな」 「はい」  任せてくれというように笑顔を咲かせた佐野が、手を洗う花御を待ってスポンジを手に取る。再び時間が出来た花御は、店内が穏やかであることを確認して、厨房のスツールに腰を下ろした。
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