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「仕事、どう? 慣れた?」
厨房に木霊する食器の触れ合う音に耳を寄せていた花御が、ほんの数秒に耐えられず声をかける。ちらりと肩越しに花御を振り返った佐野の口元が、緩やかに綻んだ。
「はい、少し。まだ、歌依さん頼りのところばっかりですけど……お客さんはみんな優しいし、ケーキの匂いがいつもしてて、幸せです」
「好きなんだ、甘いもの?」
「はい。大好きです」
躊躇いなく言いながらも はにかむ佐野が、少し目を伏せてから視線を前へと戻す。
絵に描いたような好青年だと、花御の目が細まった。
愛想が良くて人懐こいのに、礼儀を欠くことはしない。穏やかな声音は常に心地よく、感情そのままに変わる表情が、幼子みたいに愛らしく映る。
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