セピア色の硝子片

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──……穏やかだなぁ。  流れる時間が、空間が。佐野の持つ雰囲気に染まっていくように、ゆったりと柔らかくなっていく。  眺めるところもなくぼんやりと佐野の背を見つめていた花御は、ふと、髪の先ほどの違和感を覚えた。  あの背に、既視感がある。佐野のように真っ直ぐに伸びてはいない、少し猫背気味の、だけど広い肩幅。程よく筋肉のついた腕。それから──ほんの数回だけ、こっそりと爪痕を残した肩甲骨。 「っ、……」  花御は慌てて、佐野の背から視線を外した。  ここのところ誰ともそういう触れ合いをしてこなかったとはいえ、年下の、それも従業員の背に過去の相手を重ねるなど、どうかしている。  ぐ……と唇を上下引き合わせた花御は、勝手な気まずさを払拭しようと、掛ける言葉を探して指先どうしを擦り合わせた。 「……佐野くんって、モテるでしょう」 「ぅえっ!? え、なんですか、急に」
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