セピア色の硝子片

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「それはそれで、君の魅力じゃないかなぁ。僕は可愛いと思うけど、その忠犬っぽいところ」 「……どうせなら大型犬がいいです」 「あー、残念。中型犬だと思う。柴犬っぽい」 「……複雑です」  あぁ、そういうところだと。言葉通りの色が乗る声と、素直に歪む佐野の表情に花御の頬が緩む。  絶対に噛みつかない、賢い犬と戯れている気分だ。 「まぁでも、君のそういうところが好きだって言うお客様もいると思うよ。少なくとも僕は気に入ってる」 「……ありがとうございます」  返事に迷う仕草を見せながら口元は緩やかに弧を描き、困ったという色を見せないところが心地いい。  つられた花御がふっと笑みを浮かべたところで、厨房にガラスの割れる高い音が響いた。 「──、!」  微かだった店内のBGMが膨れて聞こえる静寂に、入り口近くにいた花御が飛び出す。
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