初夏の向日葵

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 風が季節を運ぶ──。  フルーツの甘い香りをいつも身に纏っていた祖父の、口癖のような言葉を思い出した花御(はなみ) (いつき)は、来訪者よりも先に店内に入り込んだ熱っぽい風に、ふっと目を細めた。  初夏。5月も中旬にさしかかり、いよいよ夏が始まるという土曜の昼過ぎ。  洋菓子店[Sea flower]は、今週1番の暑さにやられた人たちの避暑地として賑わっていた。 「いらっしゃいませ」  重たいベルの音が鳴り止み、冷やされた空気と混ざり合った熱気が柔らかく、その姿を失くしていく。  穏やかな営業スマイルを浮かべていた花御は、ぺこりと小さく頭を下げる青年に、おや、と目を瞬かせた。  彼の顔には、覚えがある。小型犬のように丸い瞳と、愛想のいい笑みを形作る幼げな唇。  いつか店を訪ねて来た、香乃(こうの)の友人ではなかっただろうか。
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