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浮かべた笑顔は崩さないまま、青年を観察する。彼は店内の陽気な空気を堪能するように表情を踊らせ、色鮮やかに鎮座するケーキに目を輝かせていた。
どうやら、今日の目当ては香乃ではないらしい。
職業柄、余計な詮索はしないようにしている花御は、真剣にケーキを選ぶ青年に素性を訪ねることはしなかった。
彼の答えが出るまで、空気の弾む喫茶スペースへ目を向ける。
「すいませーん」
タイミングよく上がった呼び声に、花御の視線が声を掛けた女性客のさらに奥へと投げられる。向けられた視線にちらりと応える香乃の様子に、花御は改めて女性客に笑顔を向け、未だショーケースの前で悩む青年へ眉を下げた。
「すみません。少し、外しますね」
「あ、はーい」
なんとも軽い返事を残した青年に一礼して、カウンターを離れる。一瞬目を合わせた香乃が申し訳なさそうにするのを、花御は困ったような笑みで宥めた。
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