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現在[Sea flower]は人手が足りていない。来週には辞めてしまうスタッフの代わりを求めて、募集をかけ始めてから3週間ほど。未だその穴は埋まっていない。なおかつ今日はスタッフが1人休みときている。香乃の負担は、考えるまでもなかった。
「お待たせしました」
小学校に上がったばかりだろう少女の前に膝をつき、花御が照明に輝く銀のフォークを差し出す。少女は了承を得るように母親を窺い、ありがとう、と柔らかい笑みにか細い声を乗せてフォークを受け取った。
すみませんと頭を下げる母親に笑顔を向け、一礼ののち、レジカウンターへと踵を返す。視線の先ではようやく決まったらしい青年の、陽を追う向日葵のような笑顔が花御を見つめていた。
「王子様みたいですね」
「は?」
「差し出したのはガラスの靴じゃないけど。うちの子なら、騒いでるだろうなぁと思って」
鮮明に情景が浮かぶのか、青年が楽しそうに笑う。
花御は、香乃と同い年だと認識している彼に似つかわしくない「うちの子」という言葉に、思わずぽかりと目を丸くした。
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