リングサイドブルー

62/70
前へ
/70ページ
次へ
☆  退社してすぐに、千晃と優月は駅に向かった。そこから二人はいったん別行動をとることにした。 千晃が実家まで心暖を引き取りに行く間、優月には、一足先に地元駅に向かってもらった。その目的は、地元洋菓子店の人気スイーツ、ロールケーキだ。  出向中は、帰宅時間の関係で厳しいだろうと諦めていたのだが、直接向かってもらえば、間に合うかもしれない。  心暖と一緒に電車に揺られていると、ポケットの中でスマートフォンが振動した。ダウンロードしたばかりのメッセージアプリに、優月からの連絡が入っている。 『Y.Narisawa:ちゃっきー、北口の改札で待ってるね。ミッションコンプリート! くるくる×3ゲット。買ったやつが最後だったよ』 『Chucky:あざす。こっちも親が駅まで心暖つれてきてくれたので、うまく急行乗れました。あと3駅』 狙い通りだ。千晃は返信をしてスマートフォンをしまう。 「パパ、どうしたの?」  心暖がジャケットの裾を引く。こちらをじっと見つめていた。 「ん? なんでもないよ」 「だって、いまパパわらってたよ」   千晃は思わず口元に手を当てるが、そういう心暖の方こそ、見ているこちらの疲れが飛びそうなほど、朗らかな笑みを浮かべている。 「心暖、今日はいいことあるかもしれないよ」 「いいことってなあに」 「さあ、なんだろう」  新しくできた友人は、心暖に会ったらどんな反応をするのだろうか。テンションの上がった優月の姿が、簡単に思い浮かんでしまう。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加