リングサイドブルー

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1  オフィスは、終業直前の気だるい雰囲気に包まれていた。向かい合わせに組まれた六名分のデスクには、揃いのデュアルモニターPCが乗っている。職場を居心地の良い空間にしよう、そんな思いが微塵も感じられない、殺風景な空間だ。 コピー用紙の束でできたマニュアルを、無意味に眺める。調べ物という名のネットサーフィンに興じる。時間つぶしに慣れ腐った中堅社員たちの中に、ひとりだけ入社二年目の若手社員が混じっていた。  森住千晃は光の加減で赤く見える髪を弄りながら、モニターの左隅に表示された時計の、数字が切り替わっていくのをただ眺めていた。 与えられている仕事のほとんどは、終業二時間前には完了する。そのあとはただ椅子に座って、意味もない時間を過ごすだけの退屈な毎日だ。  『18:00』が表示されたとたん、千晃は画面を出退勤管理に切り替えて、退社時間を打刻した。 「お先失礼しまーす」  千晃はPCの電源を落としてさっさと席を立った。釣り用具のショッピングサイトに夢中になっていた隣の席の男が、モニターから顔を上げ、背もたれにぐいと寄りかかった。 「森住、ちょっといい」
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