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「なんすか」
これまで散々暇にさせておきながら、帰宅時間になって呼び止められるのも、いつものことだった。何かのきっかけにやるべきことを思い出したというだけの話なのだろう、相手に悪気はないから性質が悪い。
「とっくに終わってますよ。メンテナンスの報告資料のことでしょう。保守班に回しました」
千晃は話を聞く前から、ぶっきらぼうに言葉を投げた。
「おお、そうそう。終わってるならいいんだよ。じゃ、お疲れ」
ひらひらと手を振って、男はまた自分の世界に戻っていった。
(クズ野郎が)
心の中で悪態をつき、千晃は男に背を向けた。
仕切りの向こう側では別の班の社員たちが忙しそうにキーボードを叩いている。帰り際に挨拶をしたところで、白い目がこちらへ向くだけだ。
ならば、余計なことはしないのがお互いのためというものだ。千晃は声もかけずに通り抜け、そのままエレベーターホールへ向かった。
この会社には大きく分けて二つの部門がある。多種多様な企業からの依頼に対応できる、エリート社員ばかりを集めた外部企業向けの部門と、その他の社員を寄せ集めたグループ企業向け部門だ。千晃は後者組織の運用班に所属している。
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