リングサイドブルー

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「じゃあなんで、ゆずさんは俺にうるさく言うんすか」 「少しは自分で考えんかい。俺も忙しいんだ」  橋爪のモニターを覗き込むと、伊豆七島の釣り情報サイトが開かれている。どちらかといえば、仕事中に関係のないウェブページの閲覧がないかどうか、監視する立場のはずなのに、ひどい怠慢だ。 (俺が、仲間として認められたいと思ってるって?)  馬鹿馬鹿しい。鼻で笑って一蹴したいのに、なぜかそれができない。 (うるさくつっかかってくる相手と、なんでわざわざ。ゆずさんだってそうに決まってる)  しかし、教えれば数ヶ月でものになると思っているはずもない。どんな天才でも、一朝一夕でプログラミングができるようになるわけじゃない。 『分かる』の積み重ねが『出来る』になるまでに、どれほどの時間がかかるものなのかは、千晃ですらわかっている。優月なら当然理解しているはずなのだ。 (それなのに……、ゆずさんはなんで俺に教えようとしてくれるんだろう)  当たり前に受けていた指導が、実は当たり前じゃなかったと気づいて、千晃は初めて優月自身の考えが気になった。そういえば、これまで一度も優月の気持ちを考えたことなどなかったかもしれない。  ID認証を終わらせて、千晃がPCを起動したとき、橋爪が口をひらいた。 「とにかく、首藤には手を出すなよ。女欲しいなら他にしろ。佐倉もだめだ」
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