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「心暖。今日保育園おやつなに食べたの」
「どーなつ。ふわふわだったよ」
「へえ。じゃあこの絵本のうさぎさんと一緒だったんだね。おいしかった?」
「んー」
保育園の話をしたくないのか、声が曇る。
「……今日は、保育園楽しかった?」
それでも千晃が訊くと、心暖はころんと寝返りをうった。それから星の飾りがついた髪留めを引っ張って、ふたつ結びの髪を解き、指で梳く。
「なあ、心暖。明日も拓斗くんと遊ばないの?」
「んー」
「拓斗くんのこと嫌い?」
ややあって、心暖は首を横に振る。
「喧嘩はしちゃったけどさ、拓斗くんはまた心暖と仲良くしたいんだと思うよ。心暖のほうから話しかけてあげたらどうかな。もしこのまま心暖がずっと拓斗くんのこと避けて、話もしなかったらさ。拓斗くんは心暖に嫌われちゃった、って思うかもしれないよ」
話の内容がまだ難しすぎるのだろうか。心暖は黙りこくったまま、床の一点を凝視している。
「パパ」
「ん?」
「なんで心暖にはママがいないの?」
無垢な目で見つめられて、千晃は唇を結んだ。
見て見ぬふりをしてやり過ごしてきたが、道を歩いているときや、絵本の中でも、心暖が母親という存在を見つめていることには気づいていた。
だから、これまでの会話とはなんの脈略もなかったが、近いうちに訊かれるだろうと覚悟はしていた。
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