リングサイドブルー

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「どうしたの、これ」 「おばあちゃんがくれた」 「なるほど」  これを食べればすぐに元気になるだとか、いやな気持ちもどこかへ行くだとか、そういった類の話でも吹き込まれたのかもしれない。 「ありがとね。じゃあ半分こしようか」  子育てをしていると、予想外の出来事に悩まされることもある。けれど、こんなひと時が仕事で抱え込んでいるものまでやさしく溶かしてくれる。  六個しかないチョコレートを分け合ってから、心暖はようやく寝支度に入った。 「心暖」 「なあに?」 「もう少し仕事に慣れたら、今よりも早く帰れるようになると思うから。あとちょっと我慢できる?」 「うん、いいよ」  分かっているのかいないのか、心暖はふとんの中に潜り込んで、気軽な調子で返事をする。差し出された小さな手を握ってやると、すぐにすうすう寝息を立て始めた。 (一応、話はしたけど……)  純粋な疑問をぶつけてはきたし、言葉をすくって何らかの反応を示しはしたが、実際にどこまで理解しているのかは不明だ。 (こうやって機会があるときに、段階を踏んで伝えていくしかないんだよな、きっと)  とりあえず自分がそれまでの間にできることは、すべてを心暖が理解できるようになったときに、心の傷にならないように、今、精一杯愛情を注いでやることなのかもしれない。千晃は自分自身をそう納得させて、心暖のそばを離れた。  テーブルの上にラップトップを設置する。寝るまでの少しの間でも、プログラミングの練習をしようと、千晃はエディタを立ち上げた。
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