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「違うんですよ。それはぜんぜん大丈夫なんですけど、心暖ちゃんを怒らせてしまったから、もう遊べないって思ってたみたいで、それで保育園いきたくなかったのかなって」
「そうだったんですか。また仲良くできるとこちらとしても嬉しいですけど……もう大丈夫そうかな」
窓ガラス越しに心暖と拓斗が、こちらを覗き見ている。泣き出す寸前だった拓斗にも笑顔が戻り、ふたりはすっかり仲良しといった感じで、ときどき顔を見合わせる。
子どもたちを見た拓斗の母親は「すみません」と千晃から顔を背けて鼻をすすった。
どうしたら保育園に行かせられるのかと、彼女も真剣に悩んでいたのだろう。子どもと向き合って話をしてたり、していたのかもしれない。
他人から見れば、子供が行くべき場所に行ったというだけのことなのだろう。
だが、たったそれだけのことでも、嬉しくて涙が出てきてしまうのは、真剣に向き合っているからだ。
大人ならば、いちいち理由をつけて遠まわしにしてしまうようなことを、気持ちが向かうままに真っ直ぐ行動する心暖の姿に、千晃も感銘を受けていた。
子育ては自分に欠けた部分が何かを、驚きとともにもう一度気づかせてくれる。心暖が日々成長していく姿を見守ることは、自分にとって、人生の復習をする意味もあるのかもしれない。
荷物を保育園に預けて、千晃は駅に向かった。まだ、遅くないはずだ。心を開かないと何も変わらず、腐ったままこの出向が終わるだけだ。千晃は一つ決心をして、電車に乗り込んだ。
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