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始業十分前、今日も出社はぎりぎりだ。千晃がシステム課にたどりつくと、自席でモニターと向き合っていた優月が、弾かれたように椅子を立ち上がった。
「ちゃっきー、おはよ」
「うす」
なんだか、今日の優月はおかしい。妙に落ち着かないようすだ。
優月に訝しげな目を向けながら自席に向かったが、デスクに積まれた本を見て、千晃はもう一度視線を戻した。
「なんすかこれ。勉強してこいってこと?」椅子の上に鞄を置き、千晃は溜め息をついた。
合間を縫って、できることはやっているつもりだが、まったくお話にならないということだろうか。
「ちゃっきー。それ、すごく分かりやすいよ。基礎なんだけど、本当に大事なところばかりが一通り揃ってるし、区切りも短いから時間なくても電車の中でちょっと読んだり出来ると思う」
「ゆずさんは俺がなんにも勉強してないと思ってんですか」千晃は自分の鞄から本を何冊か取り出し、優月に見せた。
「そんなこと思ってないよ」
優月の顔が歪んで、畳み掛けるように言葉を継ごうとしていた自分自身にはっとする。
これではいつもと何も変わらない。優月が何を考えて、どんな情熱を持って自分に仕事を教えようとしてくれているのか、知りたいと思うのなら、まずはきちんと向き合わなくはならない。
愛娘の前向きな一歩を思い出し、千晃は言葉を飲み込んだ。
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