リングサイドブルー

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 ややあって、優月が口を開く。 「それ、実は俺が一年目のときに神長からもらった本なんだ。俺、高校から独学でプログラミングやってたんだ。 エラー出たら感覚で書き直したりして、いつもどうにかなってたし、それもある種の自信だったけど……、仕事じゃ全然通用しなかった。 ただ書いていただけの一行一行が、全部大事なんだって今はすごく分かる。この本、どうしてそうやって書かなきゃいけないのかとか理由も書いてあるし、わかりやすいよ。 俺から渡されると受け取りたくないかもしれないけど、神長が選んだやつだから間違いないよ。返さなくていい、ちゃっきーに譲る」  優月もここまでくるのには、才能だけではなかったということだろうか。千晃は本を手に取ってページを捲った。 ページの隅に折り跡がいくつもあり、書き込みが残っている。優月が何に躓いて、それをどう解決してきたのかがよくわかる。 今はもう必要なくなってしまったものかもしれないが、きっと優月にとって思い入れのある本に違いない。千晃はぱたんと本を閉じて、鞄を背にしたまま椅子に座った。 「俺、実は就活してるときにフリークスタンダード受けたんですよ」 千晃が話始めると、優月はすぐ隣にかけた。
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