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「なんか……、ごめん。俺、話すの下手だし、今まで人に教えたこととかもなくて、しかも今回みたいに社外で仕事するのも初めてだったから、他の会社のやり方とか、そういうのも全然わからなくて、自分基準でなんでも押し付けたりして」
「いや、俺だって他なんて知らないし。それに、来たのがゆずさんで良かったです。そうじゃなかったら張り合いもなくて、すぐに諦めてたと思います。
正直、分からないことだらけで相当きついんで」千晃は、優月から譲り受けた本を鞄の中にしまった。
「これ、ありがたくいただきます。ちょっと時間掛かるかもしれないけど、ちゃんと読んで勉強します」
「ちゃっきーって、他になんかやってるの?」
「いや、特別に何をしてるってわけじゃないけどまあ……、家に帰ると色々やらなきゃいけないことが多くて。洗濯だとか飯の準備だとか翌朝の弁当の仕込みとか。……子供いるんで」
これまでは頑なに隠していたが、一つ打ち明けてみると自分自身の心が解けるのか、自然と言葉が出てきた。
「えっ、ちゃっきー子供いんの?!」優月の口から漏れた叫びが、始業直前の総務部内に響き渡った。
優月の目が千晃の左手に向かう。
「あ、子供はいるけど俺はシングル」千晃は自嘲気味に笑った。
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