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車内に到着を告げるアナウンスが流れた。心暖の手を引いて電車を降り、人混みをやり過ごしてからホームを抜けると案の定、改札の向こう側で人目も憚らずに大きく手を振る、優月の姿が見えた。
「心暖、パパにも新しい友達ができたんだよ」
千晃は膝を折って、心暖に語りかけた。視線からそれが優月のことだと気付いたのか、心暖は好奇心に目を輝かせた。それから、左手に提げた洋菓子店の紙袋に反応して、歓喜の声を上げる。千晃と優月は、遠目に顔を見合わせて笑った。
昨日までは、いくら言葉を交わしても分かり合えない優月と、目で会話をするようになるとは思いもしなかったのだから、人生は不思議だ。たったひとつのきっかけでこんなにも変わってしまうとは。
大人になるほどに、譲れないものが強くなって、ごちゃごちゃと考えてしまっていたが、世の中も、人と人との関係も、意外とシンプルにできているのかもしれない。
『葛藤ループは、新しい価値観で切り抜けるしかない』どうやらそれは、自分のすぐ近くにあるものだったらしい。
改札を抜けると、仕事上がりとは思えないほどハイテンションの優月に迎えられて、心暖にもそれがうつっていく。千晃は優月の手から紙袋を取って、代わりに心暖の手を預けた。「こっちだよ」と、心暖が夕暮れのバス通りを指した。
千晃は二人の後ろを歩きながら、夕食の段取りと同時に翌朝の弁当について考える。
明日の昼休み、首藤は休憩室にいるだろうか。今度こそ、何か前向きな報告ができそうだった。
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