リングサイドブルー

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☆おまけ  顎の下で毛先がふわりと内巻きになったショートボブ。丸い顔に、丸い目。愛嬌のある顔立ちは、手のひらサイズの小動物を思わせる。例えばハムスターとか、リスとか。  千晃は隣を歩く、自分の肩ほどの背丈しかない、小柄な女性のつむじを見下ろしていた。  『お嬢様学校上がりで、男なんて知りません』といった雰囲気の清楚美人や、『男の顔を見ただけで、イイトコロがどこなのかすぐに分かる』といった雰囲気のこなれ美人に囲まれていると『普通』のほうがかえって目立つものなのかもしれない。  人事部人事課、綿貫有紗。  昼食時に首藤から、たびたびその名前を耳にしていた。それが、洋菓子好きでよくシステム課に差し入れをくれる『綿貫さん』という人物と結びついていたが、これまで直接話をする機会には恵まれなかった。  坂巻に恋をしているだとか、神長と付き合っているのではないかとか、総務部内でも噂になっている人物だ。  だから、システム開発を手がける面々で温泉旅行の企画が上がったとき、そこに総務ですらない彼女の名前が上がったことにも納得した。 (坂巻さんと佐倉さんはくっつきそうな感じだし、お相手は神長さんってとこかな。……ゆずさんは不毛にも、佐倉さんが気になるみたいだし)  なんでこんなに普通の子が、神長さんと。どこにでもいそうな子だと思うのに、自分まで彼女のことを気にかけているのが不思議だ。 『普通』というものを良さのようにも感じてしまうのは、心暖が気に入りそうな相手を無意識的に選ぼうとするからなのだろうか。わからない。
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