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「心暖。このお姉ちゃん、おやつのお姉ちゃんだよ。わかる?」
心暖は千晃を見上げ、それから有紗に向き直り、ぱっと顔を輝かせた。
「おやつの……、お姉ちゃん?」有紗は首を傾げた。
「綿貫さんさ、よくシステム部にお菓子差し入れしてくれたでしょ。実は俺、それいつも家に持って帰って心暖にあげてたんだよね。それが心暖の中ですごく特別なものみたいでさ」千晃は「な?」と心暖に話を振った。
「おねえちゃん、おかしすきなの?」心暖が有紗の指先をぎゅっと握った。
「うん、大好きだよ。心暖ちゃんは?」
「だいすき」その幸せそうな笑顔に、有紗と千晃の頬が自然と緩む。
「おねえちゃん、お菓子作るの得意なんだよ。今度心暖ちゃんに作ってきてあげようか」
「ここあもやりたい」
千晃がふっと噴き出した。
「やりたいって、あのね……。お菓子はどこでも作れるもんじゃないんだから、そういうのは簡単なことじゃないの。わかるか?」
真剣に言い聞かせたが、菓子のことで頭がいっぱいになってしまったのか、あまり話を聞いていないようだった。こういうときは、満面の笑みを浮かべるばかりで、決して頷こうとはしないから、簡単に分かる。
有紗が千晃の顔を覗き込んできた。目が合うと「かわいいですよね」と同調するように、柔らかく微笑んだ。
もしこんな子と付き合えたら、どんな環境でも少数派でしかなかった心暖も自分も幸せになれるのではないだろうか、ふと新しい幸せの予感がよぎった。
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