リングサイドブルー

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 大浴場の入り口に辿り着くと、千晃はタオルと子供用の浴衣が入った袋を、心暖の小さな手に握らせた。 「いいか、暴れるなよ。ちゃんとおやつのお姉ちゃんの言うこと聞けよ?」  頭に手を乗せると、心暖は袋をしっかりと胸に抱きしめて大きく頷いた。 「じゃあ、俺あそこで待ってるんで」  千晃は大浴場の入り口近くにある、ベンチがいくつか並んだ簡易休憩所を指した。 「え、いいですよ? 部屋までちゃんと連れて行きますから」 「いや、なんか俺が、綿貫さんともうちょっと話したいなって」  大勢の中に戻ってしまえば、もう話をする機会もほとんどなくなってしまうかもしれない。焦った千晃がど直球で好意を見せると、有紗の頬がみるみる赤く染まった。 「ちなみに綿貫さんって、神長さんと付き合ってるんすか?」 「え? わたしなんかじゃ、とても神長さんの相手には。……わたしは、誰とも」  有紗は首を横に振って大慌てで否定をしている。仲が良さそうに見えるが、それはあくまでも友人という形なのだろうか。それとも、気持ちは傾きつつも、まだ恋に発展する前の段階なのか。 「そっか。じゃあよかった」  どちらにせよ、先手必勝だ。仕事にも、恋愛にも、これまでずっと腐っていたことのほうにこそ疑問を感じるのは、新しくできた仲間たちのおかげかもしれない。
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