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誘うのも、何となくしたくなったから。
家政婦を追い出したのも、他人が入るのが面倒くさくなったから。
勝己は知らない。
わざと家の中を散らかしてみせていることを。
その気にさせるために、苦心惨憺していることを。
今夜も、わざと全裸になって待っていたなんて、想像すらしていないだろう。
優しい勝己。
正しい勝己。
結婚を機に心身を壊した姉のために療養先へ転校し、生まれてきた甥のために進学先を決めた男。
いつでも、どんなときにも、勝己は家族の犠牲になってきた。
彼は助けを必要とする人間を一番に大切にする。
だからこそ、誰よりも手のかかる存在でいなければならない。
勝己に自分は必要ない。
誰でも愛し、誰にでも愛される男。
彼はどこででも、どうにかして生きていける。
しかし、自分は勝己がいなければ生きていけない。
勝己が、身体の中にいないと、気が狂いそうになる。
「あっ・・・。あああっ!!」
勝己の雄が自分の深い奥底を穿つ。
それが強ければ強いほど、喜びと安心で満たされる。
引き抜かれる瞬間が一番嫌い。
抜かれて、二度とはめてもらえないのではないかという恐怖がわき上がる。
ここにいて。
ずっとずっと中にいて。
「あ・・・・。もっと、もっと突けよ・・・」
足を広げて、締め付けて。
身体をくねらせて汗で滑る肌をこすりあわせる。
欲情に緑がかった瞳をすがめられて、体中の血が騒ぐ。
この、頼もしい身体は俺のもの。
広い胸、強い肩、長い足。
平凡な眼鏡の下に隠された顔は、実は誰よりも整っていることを知っている。
その、厚い唇が自分の薄いそれを覆う瞬間の快感を、いつまでも感じたくてキスをねだる。
乳首を吸わせて、性器を舐めさせて、全身くまなく触らせても、まだ満たされない。
彼を感じれば感じるほど飢えていく。
「もっと、もっと・・・っ。奧に来い」
挑発して、彼を内にとどめるためにあらん限りの力を込める。
足を絡めて、背中に爪を立てて、勝己が呻いても離してやらない。
離さないで。
離れていかないで。
離れるのが怖くて、たまらない。
こんな寂しさを、これまで気が付かなかったなんて。
心の中の獣が涙を流して吠える。
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