十六

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「やっと来たようだ」 『阿修羅』はその質問には答えずに明るくなりかけた空の彼方を見た。遠雷のような軍用機の轟音が近づいてくる。 「厚木のF/A‐18だ。地下施設攻撃用のバンカーバスターと米軍ではすでに廃棄したことになっているナパーム弾を装備している。あの街ごと灰になるだろうな。葛城と芳江を逃がしたのはまずかったが、ここの騒動だけは沈静化するだろう」  閃光が走り、やや遅れて振動と熱風が伝わってきた。四機のF/A-18が耳をつんざくような音を立て、超低空飛行で俺たちの頭上をかすめていった。衝撃波が肌をうつ。  朝焼けの光の中、真っ黒な煙がむくむくと立ち昇っていった。それを眺めていた『阿修羅』は突然はっとしたような表情になった。 「葛城はたしか、死体を焼くことは試したことがないと言っていたな」 『阿修羅』は黒煙を睨むようにして言った。 「あの煙は、空に昇ってやがて雲になる……。果たしておれの判断は正しかったんだろうか……」  『阿修羅』の危惧は朧気ながら理解できたが、俺はもう何も考えることができなかった。  ただ、もぞもぞと動き始めた血塗れのシーツを見詰めることしかできなかった。
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