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 一体どれほどの規模の施設なのか。扉に近づくと中の様子を探るために、まず耳を当ててみた。呼吸を整えて耳を澄ます。すると、背後から微かにすすり泣くような声が聞こえてきた。先ほどまでは室内に人がいる気配はまるでなかったはずなのに。俺はおそるおそる振り返った。声の主の姿は見えない。意を決して、後戻りすると棚の列をひとつずつ覗いていった。次第に声が近くなってきた。  棚のひとつの影からそっと見通すと、奥に子供が一人蹲っていた。何故こんなところに子供がいるのだろう。怪訝な思いに囚われながらも俺はそっと子供に近づいていった。入院中の子供がどこかから迷い込んでしまったのかもしれない。騒がれて見つかるのはまずいが、放って置くわけにもいくまい。子供は小学校の低学年くらいの年頃の少年だった。身も世もないような切ない泣き声だ。
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