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一、幸の鬨
真新しいとは言えぬ道場。
稽古中なのか、野太い掛け声が飛び交っていた。
その時、気合の入った高い掛け声の後、わっと歓声が上がった。
「ま、参った、参った!!」
焦ったように、降参の意思を告げる大男に対して、冷めた視線のまま静かに一礼した者は、かなり線が細い。
「い、いや、恐ろしいな」
涼し気な様で道場を後にした者を見送って、大男は額の汗をぬぐった。その息はまだ切れている。
「だろう?さすがは、お師匠様の大事な、大事な跡取りよ」
不甲斐ない様の大男を助けて立ち上がらせながら、一人の男がいっそ誇らしげに言う。すると、その跡取りに倒されたばかりの大男が目を剥いた。
「あ、跡取り、なのか?」
「おいおい、今負かされたばかりであろう、彼の者の腕を疑うのか?」
「あ、いや、そういう訳では…」
「まぁ、仕方ないだろうよ」
いなすように言って、一人が道場の入口に視線をやると、同じように他の男達の視線もそちらに移動する。
「師匠の大事な跡取りとはいえ、ユキ様は女子であるからな」
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