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◇
「また、容赦なく倒されましたな」
ユキが一人で、やり場のない怒りとともに廊下を歩いていると、笑い混じりの声がかかる。
「…見ていたのですか」
「見なくとも、貴女の腕は知っています」
そう言って柔らかく笑う利政は、道場の男の中でも線が細い。師匠たる父に次ぐ腕の持ち主だとは誰も思わないだろう。…この自分ですら敵わないとは思えない。
むすりと黙り込んだユキを見て、利政は笑みを消して聞いてくる。
「何を苛立っておられるのです?」
「…聞かなくとも、わかっているでしょう」
利政のことだ、自分の幼い苛立ちなど、どうせお見通しなのだ。不貞腐れたようにいうと、彼は困ったように嘆息した。
「そんなに、ご自分が女子であることがお嫌ですか?」
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