31人が本棚に入れています
本棚に追加
光紀に視線をやるが、奴は頭の上で腕を組んで静観している。最初から俺に聞かせる気だったのか。
「ごめん。謝ってすむことじゃないけど」
ぎゅっと佐藤が両手を握りしめるのが見えた。
「佐藤はなんでそんなことしたんだ?」
佐藤の気持ち。それを知りたければ来い。
光紀からのメッセージにはそう書いてあった。
こんなことをした理由。そこに、佐藤の気持ちがあるはず。
そして、それが俺の希望と自惚れどおりならば。
「だって!」
佐藤が顔をあげて、ゆっくりと肩を下ろしながら俯いた。
「小林くんには、関係ない」
光紀が後ろで肩を竦める。
「光紀には言えるのに、俺には言えないの?」
俺の言葉に佐藤が首を強く振る。おさげが揺れて佐藤の頭のてっぺんだけが見える。佐藤は、俺の目を見ようとしない。
「違う!」
「違わないだろ。なんで俺には遠慮してんだよ」
「……緊張するの」
「緊張?」
「仕方ないでしょ! 緊張するんだから! だから、デートだっていっぱいいっぱいだったし、小林くんみたいに余裕ないの! もう別れたんだからほっといてよ!」
「あ! さと――」
佐藤は声を張り上げると、そのまま俺の横をすり抜けて走っていってしまった。
あの時のデートの時みたいに、あげた手が宙で止まる。
「ドンマイ」
光紀が俺の肩を叩く。大きなお世話だ。
最初のコメントを投稿しよう!