恋するバツゲーム

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 小刻みに震える肩に、泣いているだろうことが伺える。  いざ声をかけると、なんと話し始めればいいのかわからない。  俺はゆっくりと図書室を見回した。棚に敷き詰められた本の数々。  俺はあの本のラストの言葉をぼんやりと思い出す。 「どうして、いつか通じると思っていたのか」  俺の言葉に、佐藤が顔を上げてこちらを見るのがわかった。  主人公のラストの言葉。彼が自分で自分にかけた呪い。 〔せめて。一生、この想いに気づかれないように〕 〔俺は、ずっと君の色に染まったこの想いを胸に、君ではない別の人に恋い焦がれていると誓う〕  俺はこの結末を変えよう。 「せめて。一生、この想いが続くように」  佐藤から始まったこのカラクリのバツゲームの結末を。 「俺は、君の色に染まったこの想いを胸に。君に恋い焦がれていると、誓う」  佐藤の目が赤い。  呪いでも解放でもなく。  俺が佐藤に伝えたいのは。 「佐藤奈美子さん」  息を吸い込む。勢いで言ったあの時とは違う。 「好きです。付き合ってください」  胸のドキドキが一気に跳ね上がる。  改めて口にした言葉が俺の心をじんわりと温めていく。  これだったんだ。  俺が佐藤に伝えなきゃいけないのは、これだったんだ。 「なーー!」     
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