31人が本棚に入れています
本棚に追加
その視線の先は。見なくてもわかる。俺に好きなやつなんていない。ということは。
「無理無理無理!」
ブンブン、と頭を振る。思わずなのか、なんなのか、横に振っていた両手首を光紀が掴んでくる。
「無理じゃない! 今こそ行く時だ!」
クラスメイトがざわつく。やっぱり、という声がそこかしこで聞こえる。
こうなりゃ。
もうやけだ。
男好きと思われて高校生活を過ごすよりまし!
俺は、光紀の手を振り払って立ち上がると、目を伏せたまま机の方を向く。
「佐藤奈美子さん! 好きだ! 付き合ってくださああい!!!!」
おおー、と何に感心したのかクラスメイトが声をあげる。
「で、誰だっけ? 佐藤?」
がたり、と椅子が動く音がした。おそるおそる顔をあげる。
本を置いたまま、佐藤は無表情に立っていた。
いいから、振ってくれ!
心の中で念じる。
「いいけど」
エーーーーー!
と教室中に声が響き渡る。そこには、俺の声も混ざっていた。
うんうん、と光紀が満足したように頷いている。
ウソだろ! なんでOKするんだよ!
俺はうずくまって頭を抱えた。よかったなあ。と立川が嬉しそうに背中を叩いてくる。俺がドキドキしすぎてしゃがみこんだと思ったらしい。
佐藤は、もうなんでもなかったかのように椅子に座る。
最初のコメントを投稿しよう!