降水確率

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「太陰暦だったら良かったのに」 彼女は、そんなことを言った。 「28日と31日なんて、大差ないじゃん」 そんなことを言われたところで、僕には日付の決め方を変える力など、持ち合わせているわけなかった。というより、世界にいる全ての人を調べたところで、そのような力を持つ人など、一人もいないだろう。せいぜい、サマータイムという時間を早めるという謎制度を導入するのが、この場合、関の山だろう。 「なに、考えてるの」 ふと、スマートフォンをみると、検索サイトに「サマー」と打ち込まれていた。本当だったら、別のことを調べるつもりで、開いていたものだが、頭の中がサマータイムで、埋め尽くされていたらしい。 「夏?冬の方がいいんじゃない?」 当たり前である。 「寒いだろうけど、乾燥してて、ぼやけないからね」 などと言いつつ、「サマー」という文字列を消す。本来、調べようと思っていたことを、再度、打ち込んだ。 「良さそう?」 銀杏の葉が、中庭に散っていく。この季節だから、台風が来るということは、まずない。 「良くは、ないかな」 心配そうな彼女の表情を、より曇らせる。スマートフォンの画面にも、雲が描かれていた。 「そう。降水確率は・・・」 画面の表示を変更させる。ほら、と言いながら、画面を相手に向けた。 「20%。これで悪いとは、言えないね」 声量が、テンションと比例する彼女は、明らかに残念そうだった。 「キャンセル料は発生するしね」 それは、彼女の管轄である。僕はよく知らないが、彼女が、そう言うのだから、ここは信じよう。 「じゃあ、雨天決行だったんだ」 僕は、彼女の言葉に、応えた。 「まあ、そうなんだけど」 彼女は口を閉じる。理由だって分からないことはない。 僕はそっと、「う」と打ち込んだ。
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