0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
「太陰暦だったら良かったのに」
彼女は、そんなことを言った。
「28日と31日なんて、大差ないじゃん」
そんなことを言われたところで、僕には日付の決め方を変える力など、持ち合わせているわけなかった。というより、世界にいる全ての人を調べたところで、そのような力を持つ人など、一人もいないだろう。せいぜい、サマータイムという時間を早めるという謎制度を導入するのが、この場合、関の山だろう。
「なに、考えてるの」
ふと、スマートフォンをみると、検索サイトに「サマー」と打ち込まれていた。本当だったら、別のことを調べるつもりで、開いていたものだが、頭の中がサマータイムで、埋め尽くされていたらしい。
「夏?冬の方がいいんじゃない?」
当たり前である。
「寒いだろうけど、乾燥してて、ぼやけないからね」
などと言いつつ、「サマー」という文字列を消す。本来、調べようと思っていたことを、再度、打ち込んだ。
「良さそう?」
銀杏の葉が、中庭に散っていく。この季節だから、台風が来るということは、まずない。
「良くは、ないかな」
心配そうな彼女の表情を、より曇らせる。スマートフォンの画面にも、雲が描かれていた。
「そう。降水確率は・・・」
画面の表示を変更させる。ほら、と言いながら、画面を相手に向けた。
「20%。これで悪いとは、言えないね」
声量が、テンションと比例する彼女は、明らかに残念そうだった。
「キャンセル料は発生するしね」
それは、彼女の管轄である。僕はよく知らないが、彼女が、そう言うのだから、ここは信じよう。
「じゃあ、雨天決行だったんだ」
僕は、彼女の言葉に、応えた。
「まあ、そうなんだけど」
彼女は口を閉じる。理由だって分からないことはない。
僕はそっと、「う」と打ち込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!