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どこか、行くとして
紅葉の盛りという言葉があるかどうか、知らないけれど、ちょうど、彼女からのお誘いがあったのは、この頃だった。
「華厳の滝というのが、見頃というテレビが多いけどさ、実際行ってみると、人の見頃っていう感じがしてさ、あんまり、観光してるって、気持ちにならないんだよね」
天体観測サークルという、ぶっちゃけ、名前通りの活動しかしないサークルに入っている僕たちは四年生の卒業とともに二人となってしまった。
それが良いこと、悪いこと、という話は置いておくとして、なんとも普段の活動日は暇になってしまっているのである。
となると、することは無駄話ぐらいしかないが、それはそれで、楽しいものでもあった。
「オフシーズンの方が楽しめるってやつか?」
「いや、そういう意味でもないんだけど」
「でもまあ、都会の人多さから逃げて来たはずなのに、逃げた先にも人がいるっていうのは、なんだかんだ言って、いいものではないよな」
「まあ、そうだね。そういう時って、案外、都会の方が空いてたり」
「あるある」
などと、落ちの無い会話が繰り広げられる。
「それでさ」
彼女は真剣な目でこちらを向く。
「サークルの活動、っていうと、あれなんだけどさ」
サークルの活動ではないのだろうか。
「いや、こんど、キャンプ場に行こうと思っているわけ。その時に、星でも見ようとね」
「それで、来ないかって?」
「まあ、結論言えばそんな感じ。家の親も、別に構わないって言ってるし」
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