7人が本棚に入れています
本棚に追加
返ってもこない答えに必死ですがる俺の耳に
微かなノイズが囁いた。
ジジジッ――ザ―――――
弾かれたように、俺の意識は壁伝いに音源を辿る。
そこには、あの日無残に叩き付けた筈の記憶の欠片が
父の携帯ラジオが、あの日の姿のまま、夏の終わりを告げる蝉時雨のように鳴いていた。
夏に似つかわしくない柔らかな日差しを浴びながら、携帯ラジオの消え入りそうな天気予報が鼓膜を揺らす。
俺の魂は、耳障りだったはずの携帯ラジオの囁きに吸い寄せられていた。
無意識に震える透けた指先が、その薄汚れた姿に伸ばされる。
ゆっくり、ゆっくりと
俺は幻に手を差し伸べた。
「明日も晴れか。
まぁ夏だから当然だな。」
少ししゃがれた低い声は
俺の背中越しに、どこか楽しげにそう呟いた。
「親父…!?」
声の主は、俺と同じように透けた体を柱に預けながら、照れ笑いを隠すように、皺を刻み始めた目尻を指先で掻いてみせた。
最初のコメントを投稿しよう!