7人が本棚に入れています
本棚に追加
この世が修練場ならそれでいい。
俺はイヤって程、それを味わって死んだんだ。
天界の椅子にふんぞり返る髭モジャ親父が、どれだけベタな美談を望んでいようが、俺には知ったことじゃない。
この際地獄行きでも構わない。
どうせもうこの世に来れないなら、あの親父に言い足りなかった暴言を全部吐き捨ててから逝ってやる。
正直悔いは無い。もしあるとすれば
「おいクソ親父!ツラ出しやがれ!」
俺は親父の勤務する、バラック小屋に等しい建物の扉を難無くすり抜けていた。
今日がこの世の平日なら、親父は間違い無くここで机にかじりついてる筈だ。
しかし俺の意に反して、社内は水を打ったように静かだった。
机に向かう社員の表情は皆一様に暗く淀んでいて、女子社員の何名かは肩を寄せ合ってすすり泣いている。
上座に陣取る上役らしき人間に至っては、首部を垂れてうなだれていた。
ただならぬ空気の重さに、時を止めた筈の心臓が早鐘を打つ。俺は無意識に親父の姿を探した。
一つだけ空いた席に視線を移せば
そこには小さな花束が花瓶に生けて置かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!