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何で呼び捨てを強要されなきゃいけないんだとか、それに私は子供じゃないぞとか、理由ぐらい教えてくれたってとか考えていたが、二人の間がやたら静かになっているのに沙紀は気が付いた。
無理やり言わせたくせにリアクションはないのかと、沙紀が顔を上げて悠太を見ると、悠太は手で口元を掴みかかるように覆っていた。
「……何してるの?」
口を押さえているのだから、静かなのは当たり前だった。
「……噛み締めてる」
「……そう」
何を、と聞いても答えてくれそうにない悠太に、沙紀は早々に諦めた。
「よし、もう大丈夫」
口から手を離した悠太は、そのまま両手で顔をパンパンと張って気合いを入れるようなことをした。
「そろそろ帰ろう。沙紀」
「う、うん」
悠太の沙紀呼びに何やらムズムズする沙紀は、若干の抵抗を感じながらも返事をする。
悠太は沙紀の返答に微笑みながら手元のアイスを開け、ようやくアイスを食べ始めた。
アイスを食べながら帰るというたったこれだけのことなのに、なんだか大変な目に合ったとこっそりため息を吐く沙紀だったが、まだ終わりではなかった。
「はい、沙紀」
「え?」
悠太を見ると、悠太は沙紀に手を差し出していた。
「帰る時は手を繋ぐのが決まりだよ」
それは小学生の時のお約束だった。
沙紀も小学生の時は、毎日手を繋いで帰っていた。
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