プロローグ

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 あれは大学1年の秋ごろだったと思う。  サークルの飲み会の後、2年上の先輩と2人で、ほろ酔いの状態で駅までの夜道を歩いていた時のことだ。  煌々と光を放った自動販売機の前で、先輩は酔い覚ましに飲み物を買おうとしていた。財布の小銭を漁りながら、「何か飲むか?」と言ってきた。  最初は遠慮したが、先輩は「たまには先輩らしい振る舞いをさせてくれ」と冗談交じりに言ってきた。  別に飲み物のために押し問答をする時間も気力もなかったので、僕は先輩に奢ってもらうことにした。目上に対し、こういう場面での遠慮は失礼になることもあると学ぶのは、もう少し先の、社会人になる手前あたりだ。  この先輩とは同じ県の出身ということもあり、割と目を掛けてもらっていた。  先輩からはその日、初めて見るラベルの天然水を奢ってもらった。あの品ぞろえの中で一番安かったからだ。先輩はふらふらとした足取りで、微糖の缶コーヒーのホットを買った。  まともそうに振舞ってはいても、もしかしたら、酔いが深いのかもしれないな、とも思った。  
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