1章「The Jobless meets girl」

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 皮肉なことに、会社を辞めてからの方が生活は規則正しくなった。  朝は7時に起き、食事も一定の時間に三食しっかりと食べるようになった。夜も最低22時には寝るようにして、十分な睡眠を取るようにした。ここ最近は昼寝もしていない。  その日も7時には目を覚ました。そのままベッドに戻って二度寝をすることも最近は無い。  母はすでに仕事へと向かっていた。いつものようにキッチンにラップして用意された朝食を温め直し、腹を満たした後は身だしなみを整える。そして自分の部屋の熱帯魚に餌をやり終えたら、一通りの朝の日課は終了だ。  今日は朝からハローワークへ出かける。まだ予定の時間より早いので、コーヒーを楽しむ余裕があった。食後の一息を入れてから、僕は家を出ていく。  未だに朝になると、呼吸をするたびに咳込んでしまう。タバコが増えたからかもしれないが、仕事を初めて1年経つころまで、風邪でもないのに嘔吐をするような咳込みはなかった。  たぶん仕事のストレスによるものだろう。母も若い頃は、仕事への拒否反応が体に出てしまい、手に蕁麻疹ができて、ドアノブを握れなくなったことがあるらしい。  心では行かなければと思っていても、体が行くのを拒絶するのだそうだ。たぶん僕の場合、それが咳として表れているのだろう。当分は朝の咳もやみそうになかった。  予定の時間まで余裕が持てるように家を出たのは、駅前にあるコンビニの喫煙所でタバコを吸うためだった。家で吸えない分、いつもこの喫煙所でタバコを吸っていた。以前は駅前のコンビニよりも家から近い距離に複数の喫煙所があったが、最近は減り始めてしまい、今ではここが唯一残った場所だった。  タバコを吸うときは、大抵考えることをしなくなる時間だ。僕は、常に常人以上に様々なことを考えてしまう。これから向かうハローワークのことや、将来への不安について、そして今朝見た政治家の汚職事件のニュースなど、「今」「未来」「過去」の三種類の分類のうち、自分に関わることから、今はどうでもいいことまで、溢れ出す様にいろいろなことを考えてしまう。
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