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先輩の話に、少し興味が湧いた。僕が人の話に興味を抱くことは、結構少ない。あの時は、僕自身もいろんな迷いがあった時期だったから、何となく、ためになりそうな話が聞けると思った。
「割と自分自身は好きだったし、そういう悩みはなかったんだ。あの時は唐突に、今の生活を全部捨てたいと思った。一切のしがらみを全て投げ捨てて、どこか遠くに行きたかった。週4日のアルバイトも、ゼミの課題とその期限も、これからの就活とか、社会人になることとか。そういう将来のこととか約束を、無責任に放り出したくなった」
その行動は「いかれている」のかもしれない。
僕にはとてもじゃないが、周囲を取り巻く環境を投げ出すことは、怖くてできなかった。「何も考えず、何にも囚われない」そんな人生に憧れたことはあっても、それを実現するためには、今の自分の重大なもの―家族、友人、金、物、時間の中でも、特に重要なもの―を犠牲にしなければならないと、なんとなくわかっていた。
最悪、それは自分の将来も棒に振ることにもなるだろう。今の僕には、それができる勇気はないし、今後もできるようになるとは思えない。
「それにさ」
先輩はさらに言葉を続けた。
「もし、俺が突然、みんなの前からいなくなったら、どれだけの人が心配するか、気になったんだ」
「それは・・・ご家族は心配されたんじゃないですか?」
僕は一瞬言葉に詰まった。というのも、それを聞いて、僕自身ならどうだろうか、このわずかな時間で考えてしまったからだ。僕も過去に同じことを考えたことがあった。
「なあ、5日間も音信不通になって、一体どれくらいの人が俺を心配して、連絡をくれたと思う?」
僕は一応考えて、当たり障りのない数字を提示した。
「・・・15人くらいですか?ご家族を含めて」
先輩はサークルやゼミのメンバーからも慕われているし、ユーモアもあって社交的な人だから、交友関係も広そうだったから、それを鑑みた上で、15人は妥当な人数かな、とは思った。
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