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先輩は「優しいな、宙くんは」と言って、タバコとライターを取り出した。どうやら、僕の浅はかな配慮は、見透かされていたようだった。
先輩は僕にもタバコを勧めたが、僕は自分の分があると言って、ラッキーストライクを取り出し、一緒に一服することにした。
「君なら考えたことあるだろ?家族以外に、自分のことを本気で心配してくれる人はいないだろうって」
僕はタバコに火を着ける手を一瞬止めた。
「そんなこと、誰だって考えるんじゃないですか?」
そう、誰にだって一度や二度はあるはずだ。自分の存在意義を、他者に委ねたことくらい。
一方で、先輩とのここまでの会話で、僕は自分の教訓を思い出した。結局、他人に自分の価値を決めさせたところで、ろくな答えなんか返ってこない。期待する方が愚かなのだと。それに気づいたのは中学生の頃だ。
「そうだな。だけど、大抵の人間はその答えを聞くことはしない。『自分は大したことはない』と謙遜していても、ある程度は良い答えを期待しているものだ。人間ってのはどうしても、物事を良い様に考えちまうんだから。だから、こうやって実際にいなくなった時、本気で心配して連絡をよこす奴と、そうでない奴がどれだけがいるかなんて、現実を直視させられることは並大抵の奴はやらないものさ」
先輩はそこまで言って大きくタバコの煙を吹かした。そして左手を広げてみせた。
「5人だ。家族を抜いて、俺に連絡をしてきたのは」
僕はそれを聞いた時、率直に「5人もいたんですね」と呟いた。今の僕には、家族を含めずに、5人も連絡を寄越してくれそうな人は思い当たらなかったからだ。
「サークルとかゼミとか、その他の交友関係を見てみると、5人ってのは少ないかもしれない。まあ、いないよりはマシだなって感じだ」
「先輩はその時、他にどう思ったんですか?その・・・結果が出たことについて」
あくまで会話を繋ぐための質問でもあったが、単純にその時の心境について、他者の感覚に関心があった。この先輩は、僕にはできないことをやってのけたのだから、当然興味は湧いてくる。
「・・・意外と冷めていたな。というか、それだけが目的じゃないし、どちらかと言えば、しがらみのない自由ってのに価値があったからな、あの時は」
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