洗脳形ハーレム

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 満貴は無我夢中で地面を蹴り、飛ぶ首に体当たりを浴びせた。 見かけはチョンチョン――飛頭蛮のようだが、正確な事は分からない。とにかく殴る。 ステッキを振り上げ、首に打ち下ろす。その腕に不可視の力が乗り、チョンチョンの頭部をスイカ割りのように砕いた。  満貴が顔を向けると、女は息を吸って後退った。 今しがたの満貴の姿が暴力的で、手にするステッキには血が付着している。窮地を救われた感謝より先に、野蛮な闖入者への怯えが生じた。  壁に背中をつけ、これ以上離れられないと悟ると右手に走り出す。その肩を掴むと、力強く引っ張られた。 「は……嫌…!嫌ァ!!」 「待ってください!ここは危ないから!」 女は頑強に抵抗する。 掴む手を叩き、膝に蹴りを浴びせてきた。体重が乗っていないとはいえ、痛い事は痛い。 「化け物じゃないから!何もしないから!」  一緒に来て下さい、という前に女の瞳に光が戻る。 抵抗が緩んだと見て、満貴は慎重に指を離した。女のその表情は、目の前の人物が怪物ではないと初めて気づいたようだ。  人間と理解してなお、顔には恐怖がこびりついているが、それを晴らす手段は満貴にはない。満貴は女を連れて、通路内に生じた自宅への扉前に戻った。 「ここ…は」 「俺の家。朝、出勤しようとしたら、こうなってて」 「え…?」  女を家に上げ、冷蔵庫から麦茶を出した。 ローテーブルの側に腰を下ろし、満貴はこの場所に来てからの経緯を話す。 女の名前は佐々石楓(ささいしかえで)。現代文担当の教育実習生で、学校に向かっている所、突如この場に入り込んでしまったらしい。 「あの…どうやって帰れば」 「いや、あ…わからないです。探してるところで……」  楓は泣きそうな顔を伏せる。 放っておきたかったが、死ぬ事を承知であの通路に送り出す事は出来ない。 「力になれなくてすいません。あの、スマホ持ってますか」 「…スマホ?」 「えぇと、外に連絡取れないかと」  楓は縋るような手つきで取り出し、しばし指を動かす。 「圏外です……」
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