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満貴は楓の答えを待つ。
「大丈夫です。行きますから…」
「ありがとう」
2人は一緒にダンジョンに出た。
昨日と同じように右に進み、扉が並んでいる区画に出る。
他にも通路に向かって店を開いている、薬局らしいスペースも見つけた。
「ちょっと寄ってみる?」
「え、けど…お金」
「受け取る人もいないし、使う人もいないと思いますけど」
「あ、そうですね。ごめんなさい、変なこと言って」
「いや、大丈夫。真面目なんですね」
首を振る楓を見て、満貴はちょっと落ち着いたようだと感じた。
薬箱や化粧品、栄養ドリンクなどが手つかずで残されており、照明に照らされた店内は清潔に保たれている。
店員の姿は無い。満貴はバックヤードに入ってみる事にした。
「危なくない?」
「え?うーん、店員がいたなら、勝手に持っていく訳にもいかないし」
「そ、そうですね」
従業員用の出入口をそっと押し開け、様子を窺う。
廊下に出た2人の前に、大きなネズミが現れた。短い悲鳴を上げた楓の前に出て、ステッキで頭を一撃。
蹴られたゴミ箱のように吹き飛んだきり、ネズミは仰向けに横たわり、身動きを止めた。
「え、えと、死んだの?」
「多分……確かめるのはちょっと」
「そうだよね…は、はは。けど、店員の人は?」
「……ここから呼んでみる?」
楓はやめて欲しい、と言った。
満貴としても、この空間内の住人の存在を考えると、あまり気が進まない。
この時、佳大はある語句を思い出した。ローグライク、あるいは不思議のダンジョン。
「商品を一個、外に投げてみます」
「大丈夫ですか?」
「万引きにはならないし、どうしてもって時は謝りましょう」
「……そ、そうですね。じゃあ、お願いします」
満貴は錠剤の入った箱を掴み、店の前を走る通路に放り投げた。
10秒ほど待ったが、周囲に変化は起きない。歯ブラシを1本持って、店の外に出るが、警報が鳴ったり、店員が飛び出してくる気配は無い。
「持ってて…いい、んですよね?」
「多分。なんなんだろう」
2人は鞄に必要なものをしまい、店を出た。
解熱剤や包帯、歯ブラシにシャンプー、それから日持ちのするシリアルバーを、鞄一杯に詰め込む。
楓は入り口前に置かれている買い物カゴに入れて持っていこうとしたが、胸騒ぎがしたので、満貴は止めた。
「荷物は俺の鞄に入れていきましょう。どこかで鞄があれば、渡します」
「うん、わかった」
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