そして・・・

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そして・・・

 マーサの夫、スタンは危機を脱し、退院して家に帰った。  メアリーは例の教団から抜け、今はネイティブハワイアンのための活動をし始めた。相変わらず、何かのカルトにハマりやすい女だ。  復元された97式攻撃機は当局に没収されたままだ。シュワルツは返還を求めていない。処分の決定には時間がかかりそうだ。  オノダ、マツイ、エンドウらの遺品は日本に引き渡された。遠からず、遺族の手に戻る。  パトリックらが乗ったPA-46は真珠湾に墜落したが、海軍の手で救助されていた。飛行禁止空域への不法侵入など、幾つかの罪に問われている。ファーロングとドナルドらの傭兵たちは、爆発物の使用で逮捕された。  麻薬や詐欺で、教団の活動に法の裁きが入る日は近い。  アーノルド・シュワルツは仕事を辞め、養老院に入った。歳相応の生活へ、シフトチェンジを図る。  97式攻撃機を復元した回顧録を書き始めた。新しい資料を集め、97式がオアフ島に不時着した当時の事情を調べた。  あの当時、ハワイには5万人以上のアメリカ人が住んでいた。しかし、駐留するアメリカ海軍水兵たちは、現地島民を野蛮人と蔑む事が多くあかった。彼らの粗暴な振る舞いは、10倍もいる住民の反発を呼んでいた。地元住民の破壊工作や一斉蜂起の方を、駐留司令官は心配しなくてはならなかった。政治的な色を帯びた蜂起であれば、主体がネイティブになるか、日系中国系の移民になるかで対応は違ってくる。幸いにも、19世紀末のような内乱は起きなかった。  日本と戦うためにも、アメリカはハワイ現地住民の協力を必要とした。野蛮人と蔑んでいては、同士として戦ってくれない。戦後、ハワイはアメリカ合衆国の州となる。  アーノルドはペンを止め、少し考える。以前とは違う目でハワイを見ていた。 「前へ進め!」  父がかけてくれた最後の言葉が、時折、耳に返ってくる。なつかしく、新しい気力を与えてくれる声だ。  シュワルツ自動車修理を引き継いだのは、マルコア・ハミルトンである。電子機器の扱いに長けて、最近の自動車ならお手の物だ。マカナとも良い関係らしい。  神の肉体は役割を終え、再び小瓶に封じられた。  小瓶は真珠湾の中を漂いながら、ゆるやかな流れのままに湾の外へと出て行く。その先は太平洋だ。  どこへ行くのか・・・それは、神のみが知る。 <  おわり  >
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