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「『記憶』って何なんだろうな…花菜が好きだった俺は、今の俺か?」
記憶を消されたイチは、以前のイチとも、さっきノアといた時とも違うイチになっていた。
しかし、今のイチは、違う人格を演じているとは思えなかった。
最初に会ったイチ、皆と一緒にいたイチ、今のイチ、どれも本当のイチだった。
本当のイチだから、そばにいるだけで、心拍数は上がり、胸がギュッとなる。
態度が違うだけで、イチの内にいる本当のイチは、ずっと変わっていない。そんな気がした。
……
「聞こえていないのか?」
イチは問いかけに返事をしない私の耳に唇を近づけ、耳元で話した。
聞こえているし、返事もしようと思っているが、今の気持ちをどう言語化すればいいのかわからない。
しかも、わざとなのかはわからないが、耳元で話した後、イチの唇が私の耳へ軽く触れた。
その事により私の耳は赤く熱を持ち、更に返答を考えられなくなる。
「…聞こえているのなら、いい。花菜との事はある程度調べてある。俺と花菜がどんな気持ちでいたかもだ。まぁ、俺としては何で今までそんなに気持ちを押さえてたのかわからないけどな」
イチはそう言うとベッドから立ち上り、奥の棚へと歩いて行った。
部屋には私とイチ以外誰もいる気配がなく、外からの物音もしなかった。
……
……あれからどのくらい時間がたったのだろう…?
イチが歩く音や、イチが『カタカタ』と何かを動かしている音を聞きながら、麻酔をされた時の事を思い出す。
……ノアは、第3の人類を創り出す事と、私からナノマシンを作成する事を計画していた。
…ノアはどこへ行ったのだろう?
もう、私から卵子を全て抜き取り、第3の人類を創りはじめているのだろうか?
……イチは、全て知っているのだろうか?
聞けば、教えてくれるだろうか?
……
知りたい事は山ほどあるが、聞いたところで私が変えられるのかはわからない。
聞くだけ無駄とは言わないが、聞いて悩むくらいなら聞かない方がいいのかもしれない。
……
もし、第3の人類を創られていたら、私はどうする?
自分自身に問いかける。
……
私は……
私は、幸せでいたい。安心していたい。
第3の人類とか関係なく、その時その場所、その私で、幸せで安心していたい。
……
自分の思いがハッキリとわかった頃に、イチがベッドの方へ戻ってきた。
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