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「こんな物しかないが…」
奥の棚から私の方へ戻ってきたイチの手には、水の入ったコップと非常用の食事が入ったレトルトの袋が握られていた。
イチは私に何か食べさせる為に、これを探して持ってきてくれたようだ。
「…あ、ありがとう」
お腹は空いていなかったが、食事という日常を思い出し、少しだけホッとする。
それに、イチが私に何か食べさせようと考えて持ってきてくれた事がうれしかった。
「動けるように外すが、俺はここにいるから逃げようとか考えても無駄だぞ」
イチはそう言って私の手足を拘束していた透明の布を外した。
しばらく同じ姿勢でいた事で、手足が固まったようになっていてすぐには動かせなかったが、イチが手伝ってくれてゆっくりと手足を落ち着く場所まで戻すことができた。
イチは私が食べやすいように小さなテーブルをベッドの横へ置き、その上に水とレトルトの袋を置くと、自分は椅子を持ってきて、ベッドの横の壁に沿うように置き、その椅子へ座った。
口調や態度は今までのイチとは別人だったが、人の事を想う優しさから行動するイチは、全く変わっていないのを感じた。
私は、イチが用意してくれた食事をとろうと、まず水を飲むためにコップへ手を伸ばした。
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