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「あ…」
……?
コップは視界にしっかりと入っていたのに、コップを取ろうとした私の手はコップに触れることなく、すぐ横を通過していった。
……
手の感覚がまだハッキリと戻っていないのかもと、一度伸ばした手を戻し、握る動作を自分の胸の前で繰り返した後、もう一度コップへ手を伸ばした。
!
しかし、またコップの横を通過して、今度は触れるとは思っていなかったテーブルに指が当たった。
「あ!」
すると、急にイチの手が私の手首を掴み、私の手や腕をもう片方の手で触ったり軽く捻ったりした。
「大丈夫だ。麻酔の影響だ。体内の麻酔は排出されている。もうしばらくすればもとに戻る」
イチは私の手をゆっくりと元の場所へ戻し、コップを手に取ると、私の口の前へ持ってきて、コップのフチを私の唇へ当てた。
……
飲むのを手伝ってくれているんだと思い、少し恥ずかしかったが、ゆっくりと水を口の中に吸い込んだ。
イチは絶妙なタイミングでコップを傾け、また絶妙なタイミングで私の口からコップを外してくれた。
「…ありがとう」
恥ずかしかったのとイチとの距離が近かった事で、イチと視線を合わせないままお礼を伝えてしまった。
すぐに悪かったと思い、顔を上げてイチの目を見て、もう一度お礼を言おうとした。
『え…?!』
!
顔を上げると、イチはコップではなく私の唇へと手を触れ、自分の顔を私へと近づけた。
そしてそのまま、私の唇へキスをした。
私は、口の中に少しだけ残っていた水を、ゴクリと飲んだ。
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