未来

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「…やだ!」 「何?!どうしたの?」 私は目の前の光景にパニックになる。 …… 目を開けてすぐに、イチの顔があった。 そこまではよかった。 しかし、イチの表情が全くないのと、私を見ているのだろうと思ったイチの目は半開きで、瞳はただの黒い塊になっていた。 その時点で、イチの意識がないことに気が付いた。 イチの顔から視線を周りに向けると、イチは私の体に覆い被さるように体を向けていて、イチの背中の辺りには倒れてきた棚が見えた。 それに…… 少し視線を下げると、イチの脇腹が赤く染まっていて、その赤い中心から突起物のような物が見えた。 「あああああ…」 拘束されている手が震え、ベッドごと震え出す。 イチは、立ったまま意識を失っている。 助ける為に震える手を何度も動かすが、拘束具を力業で外すどころか、自分の手の感覚さえ震えでなくなっていて、何をしているのかさえ自分でもわからなくなる。 「はぁ、はぁ」 パニックで上がる心拍数と、震えて体を動かしている熱で、息が上がる。 暑くなる私とは反対に、イチから冷たく、暗い気配を感じる。 「やだ…イチ……やだよ…」 自分の呼吸が止まりそうになるのを、激しく振動する自分の心臓が無理矢理呼吸をさせる。 「お願いだよ…助けるから、お願い…」 イチの真っ黒な瞳に向けて懇願する。 パニックになる気力がなくなり、本当の絶望が、自分を飲み込み始めた。
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